一般社団法人Springは、性被害当事者が生きやすい社会を作るため、政策決定の場に当事者の声を届ける“ロビイング活動”を行っています。

日本では、不同意性交等をされた被害者のうち警察に報告するのはわずか1.4%です。 そのうちの55.7%は誰にも話すことができないという調査結果が出ています。(内閣府,2023年)

この現実を変えようと、性暴力被害当事者や支援者が声を上げ、 日本の刑法性犯罪規定の一部が2017年6月に改正されました。

それまで日本の刑法性犯罪規定は、明治時代の1907年に制定されて以来、110年間変わっていませんでした。 (驚くべきことに、それまでの日本の法律では「強姦」の罰則は「強盗」よりも軽かったのです!※2017年まで、不同意性交等罪の罪名は「強姦罪」でした。

この2017年の大幅な刑法改正は大きな進歩でした(詳しい内容はこちらの冊子4ページ目をご覧ください)。

しかし、新しく改正された法律にはまだ多くの問題がありました。

例えば…

  •  「暴行・脅迫」要件が残り「抗拒不能」要件が被害者に抵抗を強いるものと なっており、同意のない性行為を処罰する規定がない
  •  地位関係性を利用した性行為を処罰する規定がない
  •  性的同意年齢が13歳未満と低い
  •  強制性交等罪の公訴時効が10年と短い   など

私たちはさらに活動を続けました。 そして2023年6月、再び刑法性犯罪規定が改正されました。


2023年改正の主なポイント

① 不同意性交等罪の創設(暴行脅迫要件見直し)

「同意しない意思」の形成・表明・全うすることを困難な状態にさせる、またはその状態に乗じて性行為をした場合は処罰。

② 性的同意年齢の引き上げ:13歳未満 → 16歳未満へ

被害者が13~15歳の場合、5歳以上年長者は同意の有無問わず処罰。年齢差が5歳未満の場合は①が認定されれば処罰。

③ 公訴時効の見直し

不同意性交罪 10年 → 15年
不同意わいせつ罪 7年 → 12年
未成年への性犯罪は18歳まで事実上停止、不同意わいせつは31歳、不同意性交は33歳まで公訴可能。

④ 地位関係性を利用した性行為の処罰規定の創設

「不同意性交等の状態となる原因としてあげられた8つの事由のうちの8番目に「経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮」が規定された。

しかし、改正後の今もなお不十分な点があります。

そのため、改正刑法の附則に、性的同意についての意識(Yes Means Yes 型への可能性)、被害を申告することの困難さ(公訴時効のさらなる見直しへの可能性)等、被害実態を踏まえた5年後の見直し条項が盛り込まれました。

2023年改正後も残された課題

大きな課題1ー Yes means yes型規定の創設が見送られた

日本にYes means yes型法規定の創設の検討が必要だと思われる、実際に日本で起きた性暴力事件の判決を2件あげます。

1件はいわゆる「無神経」判決です。

59歳のスポーツトレーナーが18歳の生徒へ抗拒不能状態に乗じて性交し、強制性交等罪に問われた事件です。

判決では被害者が「強度の精神的混乱から、被告人に対して拒絶の意思を示したり、抵抗したりすることが著しく困難であったことは明らか」と認定した上で、一方被告人は「女性の心理や性犯罪被害者を含むいわゆる弱者の心情を理解する能力や共感性に乏しく、むしろ無神経の部類に入る」として、被告人に故意がないということで、無罪となりました。

もう1件はいわゆる「常識」判決です。

44歳の男性が25歳の初めて会った女性に対し、深夜2時にコンビニ駐車場で声をかけ、同意をえないまま性行為を強要し口に加療約2週間の怪我を負わせ、強制性交等致傷罪に問われた事件です。

判決では、男性が被害者に暴行をくわえたことで、被害者の頭が真っ白になり抵抗できなかったことを認めた上で、一方、男性側が相手が抵抗できない状態になっていると認識していたかどうかは「常識に照らして疑問が残る」として、無罪となりました。

ここでお伝えしたいことが3つあります。

まず、多くの性暴力被害者は加害行為に直面したときに、固まり、抵抗ができなくなってしまいます。

そして日本では、加害者が「無神経」でそれに気づかなかった、あるいはそれが社会全体の「常識」として知られていないという理由で、「同意をしていると思い込んでいた」と主張すれば、処罰から免れている事実があります。

だからこそ、性暴力の加害も被害も防ぐためには、「No」は「No」であり、沈黙もNoであり、対等な関係での「Yes」のみが「Yes」であるという概念を社会通念とし、行為者は相手の同意を明確に確認する義務があり、そうでなければ処罰されるというYes means yes型の処罰規定を創設を検討するべきです。

大きな課題2  — 被害実態に即していない、公訴時効の期間

一部の被害者は子どもであったため被害を認識できなかったり、精神的外傷で記憶をうしなったりして、性被害を報告するまでに長い時間がかかる場合があります。

一般社団法人Springが2020年にオンラインで実施した実態調査アンケート(回答数5,899件)では、性被害を受けた方で被害の記憶を喪失したと回答した件数728件中、記憶を失っていた年数が16年以上の件数 は181件、およそ4件に1件となっています。 (実態調査アンケートの結果は、こちらから見ることができます。)

公訴時効が過ぎると、被害者は告訴権を失い、刑事罰を求めることができません。
5年の延長では短すぎるため、公訴時効の撤廃またはさらなる延長・停止が必要です。


Springがこれから取り組むこと

改正刑法の運用の注視

不同意性交等罪について、性的同意年齢の5歳差要件や新たに追加された地位関係性を利用した性行為を罰する規定等、加害者が適切に処罰されていくのか注視していきます。

Yes Means Yes 型にむけて「性的同意」を社会通念にする

「性的同意」を社会通念にし、「Yes Means Yes」型(相手の同意を確認せずに性行為をした者は罰せられる)の法規定の実現をめざします。

公訴時効のさらなる見直しを求める

不同意性交等罪=15年、不同意わいせつ罪=12年、を過ぎたら刑法では罪に問えず、被害実態に見合っていません。被害の申告が困難な方についての実態調査を国に求めます。

トラウマ治療体制の拡充・啓発

性被害のトラウマによる人生への甚大な影響を、被害者一人に背負わすのではなく、全国どこにいてもケアが受けられ、リカバリーが支援される社会を目指します。

なぜ被害当事者が声を上げたのか

これまで、刑法性犯罪の規定が性暴力の実態に即していないために、性暴力の被害に遭っても法的に加害者を罪に問うことができず、被害者が“被害者”と認められてきませんでした。
多くの被害者が黙殺され、性暴力は実際には起こっていないかのように扱われています。それが性暴力の現実です。

性暴力とは「相手の同意のない性的言動」のことです。

国連は「身体の統合性と性的自己決定権の侵害」を性暴力として定めています。 「性的自己決定権」とは、いつ、どこで、誰と性関係を持つのかを決める権利です。

同意がなく、対等性がなく、自分の意思を無視され、望まない行為を強要されるとき人は深く傷つきます。
性暴力とは決して許されない人権侵害なのです。

2017年6月、110年ぶりに刑法性犯罪が改正されましたが、性暴力の実態が十分に反映されたものとは言えませんでした。

「私たちのことを、私たち抜きで決めないで欲しい」

性被害を受けた人が被害者と認められ、適切な支援を受けられ、共に生きられる社会を作るために、2017年7月7日、Springは設立しました。(Spring 設立当時の刑法性犯罪について、詳しくは以下のPDF「見直そう!刑法性犯罪」をご覧ください。)

YouTube▼Springが刑法性犯罪の改正に取り組む理由

YouTube▼刑法改正 私たちが望むこと ~ヴィクティム・ファーストの視点から~