2025年2月4日、Springのヨーロッパ在住スタッフが、ベルギー王国の首都ブリュッセルにあるEU議会議事堂で開催された「Project 2KNOW Final Conference (プロジェクト2KNOW 最終報告会)」に出席しました。
どんなプロジェクト?
「プロジェクト2KNOW」は、いま世界中で問題になっているCSAM = Child Sexual Abuse Materials(子どもを標的とした性虐待・性搾取コンテンツ)に関して、なんと加害者側の動機や背景ついて主に調査したプロジェクトです。プロジェクト名称の「2KNOW」は、「Help us to know」=「今実際に起こっていることやその加害者について私たちが知る助けとなること」を目指す意味が込められているそうです。
より専門的には、(1)加害者理解に繋がる情報・知見の収集、(2)それらの維持・公開、(3)立法者・為政者向け公式データとして再利用可能なモデル構築、がプロジェクトの目的です。
(写真:ブリュッセル EU議会議事堂内のようす)

プロジェクトの実行主体
「プロジェクト2KNOW」は、EU(欧州連合)が資金を出資し、フィンランドのNGO団体「Protect Children(子どもを守る)」、University of Eastern Finland(東フィンランド大学)、Council of the Baltic Sea States(バルト海諸国評議会)の協働で実施されました。
具体的には、東フィンランド大学のハンナ・ラーティネン博士(Dr. Hanna Lahtinen)率いるチームが、ダークWebから違法コンテンツにアクセスを試みた人たちに対して、アンケート画面を表示して調査協力を求める仕組みを構築。Protect Childrenのみなさんが、アンケート調査の質問項目デザインや、計4,549名の匿名回答者(有効回答数)から得られた結果データの分析・調査報告書の作成などに当たられました。
調査結果の概要
2KNOWの調査結果は、Web上で公開されています(https://www.suojellaanlapsia.fi/en/2know)(英語版のみ)。非常に大雑把で恐縮ですが、ここでは結果の概要をお伝えします。
加害者(潜在的不法行為者)側の動機で多かったもの:
(1)子どもへの性的興味・性的倒錯、(2)強い性欲、(3)感情調整(気晴らし)
不法行為を助長する要因で多かったもの:
(1)センセーショナルなものへの欲求、(2)子ども時代の逆境体験、(3)ネガティブな感情(怒り、ストレス、うつ等)とドラッグ使用、(4)成人ポルノからの影響
不法行為・加害行為を助長する状況的要因:
(1)テクノロジーツール、(2)アクセスできてしまうこと・その容易さ、(3)インターネット上では自分は安全・匿名性が守られるという認識
不法行為を妨げ得る要因:
(1)メッセージ表示による介入・抑止、(2)違法性の認識・自身の安全性への脅威、(3)助けを求めること・行動変容
※この他に、実際に被害に遭ってしまった子どもとその家族への支援プログラムについても報告されました。
当日会場で配布された調査結果報告書(上記URL参照)やプレゼンテーションを通じて、「2KNOW」は非常に高度な専門性が要求される厳密な調査プロジェクトだ、ということを実感しました。
EU議会とEUメンバー諸国の法律
それもそのはず。時系列が逆になりますが、EU議会は今年(2025年)6月に、子どもに対するテクノロジー助長型性的虐待・性的搾取※(Technology-facilitated Sexual Abuse and Exploitation)を取り締まる規定立法への提言書を採択しています。この「2KNOW」はその提言書を採択するため、いわば立法の土台となる科学的統計データを提供するために、EU自身が2022年に採択された勧告に基づいて資金を出して実施させた調査プロジェクトなのです。
※注:日本では「デジタル性暴力」の用語が一般的ですが、ネットやSNSを媒介手段にして実際に子どもに接触するリアル世界での違法行為・犯罪行為を含む意味合いで「Technology-facilitated」や「Technology-promoted」の用語が使われるようになって来ています。
今年6月に採択されたこの提言書は、各国の法律をAIやディープフェイクなどを含む最新テクノロジーに対応できるように改正することを促すほか、更に(1)より厳しい罰則適用、(2)公訴時効の撤廃、(3)未成年だが性的同意可能年齢以上の若者についての「同意」の新定義、を含む法規改正を謳っています。この提言書を受けてEUメンバー諸国は今後、自国の法律(刑法など)をこの内容に沿って改正できるよう、動き出すことになります。

(写真:Protect Children スタッフの皆さまと)
エビデンスの重要性(EUと日本、共通点と違い)
Springでも、日本の刑法改正に向けた要望に際しては「科学的・統計的データを示す」エビデンスベースの情報を用いることを大切にしています。この点では、日本の国会もEU議会も、立法府として法律を作る際に必要なものは共通なのだな、と理解できます。
しかし、EUが決定的に日本と異なっている点は、プロジェクトの実行主体を「Protect Children」という被害者側の状況に詳しい民間の専門NGOに委託していることではないか、と感じました。日本では残念ながらまだ、内閣府など政府機関による調査結果しか公式に認められず、例えば当事者団体であるSpringが実施した調査の結果データなどは有効活用されづらい状況にあります。
今後、こういった点も見直しが進むとよいなぁ、と願います。
このように私たちは、日本の刑法性犯罪規定がより実態に即した内容となるよう、海外事例の情報収集や意見交換をはじめとした交流を活発に行っています。 そして、参考となる情報を収集・分析すると共に、ロビイングでその結果を議員や省庁の皆さまへ情報提供・意見交換をさせていただいています。
Springが毎月2回発行しているメルマガ「すぷだより」でも、2018年の開始当時から、「海外ニュース」として世界各国の刑法や被害者支援、それを被害実態に沿ったものにするためのムーブメント、#MeToo運動などについて紹介しています。ぜひ購読&注視してください。
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