2025年8月28日(木)、衆議院第1議員会館多目的ホールにて、「刑法改正2周年企画・院内集会『東アジアの性犯罪法の現在地と日本のこれから ―韓国・台湾・香港の法律と実践に学ぶ―』」を開催しました。国内外5名のパネリストにご登壇いただき、日本語・韓国語・マンダリン(中国語)・英語の4カ国語の通訳を交えて進行をしました。
当日は、国会議員、行政関係者、報道機関、市民など約70名が参加し、会場全体で活発な意見交換が行われ、参加者の皆様には熱心に耳を傾けていただきました。また、9月30日までお申込者限定で公開したアーカイブ配信は延べ170回視聴され、多くの方に本集会の内容を届けることができました。
2023年6月の刑法改正により「不同意性交等罪」が創設されたことは大きな前進でしたが、 依然として公訴時効の短さ、性的同意に関する社会的理解の不足、デジタル性暴力への対応の遅れなど、課題は残されています。
本集会は、共通の文化的背景を持ちながらも市民の運動により先進的な法改正を実現してきた韓国・台湾・香港の取り組みから学び、 日本の次なる法改正(2028年頃の再改正検討)に向けた視点を得ることを目的に企画しました。
当日は、弁護士、NPO代表、Spring共同代表に加え、韓国・台湾・香港の活動家の方々がオンラインで登壇しました。

開会挨拶と趣旨説明
共同代表の早乙女祥子より、日本での「不同意性交等罪」の成立が韓国で活動する人々にとって大きな希望となっていること、また、Springが目指す性犯罪の公訴時効撤廃の実現に向け、韓国が13歳未満の性犯罪に対して公訴時効の適用除外を勝ち取ったことが希望の光であると語りました。
また、複数の国会議員の方々からも、法改正の意義と今後の課題について力強いご挨拶をいただきました。ある議員からは、「70年以上続いてきた旧来の法令を見直し、暴行・脅迫の有無にとらわれない構造的な見直しが実現したことは画期的だ」との言葉があり、 今後も実際の運用を注視しながら必要な改正を続けていく意欲が示されました。
また別の議員からは、法律の実効性を支える検察や行政の姿勢の重要性に触れ、「法改正が形骸化しないよう、現場の意識変化と社会全体の理解を広げていくことが大切」との呼びかけがありました。
東アジア各国からの報告と発表
本集会では、「公訴時効」「性的同意」「デジタル性暴力」の三つの柱を中心に、各地域の取り組みが報告されました。
本集会には、日本から2名・海外より3名のパネリストにご登壇いただきました。
・寺町東子氏(東京きぼう法律事務所 弁護士)
・金尻カズナ氏(NPO法人ぱっぷす 理事長)
・キム・ヘジョン氏(韓国性暴力相談所所長)
・ワン・ユエハオ氏(勵馨基金會 (The Garden of Hope Foundation) CEO / 執行長)
・シェリル・イップ氏(關注婦女性暴力協會 (Association Concerning Sexual Violence Against Women) Advocacy Officer )
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公訴時効制度の課題と撤廃に向けた議論
弁護士・寺町東子氏からは、日本の公訴時効制度の課題が示されました。
2023年改正では、性犯罪の公訴時効期間が5年延長されたものの、「誰にも相談できなかった6割の被害者」や「相談まで10年以上かかった人々」が切り捨てられ、実態に即していないと指摘しました。
Springのアンケート調査によれば、被害の認識までに16年以上を要したケースが323件(挿入を伴う・身体接触を含む被害)に上り、被害の記憶を喪失していた年数が16 年以上の件数は、合計181 件(同)に上ったことも報告されました。
韓国の進展:13歳未満および障害者に対する強姦・準強姦の公訴時効はすでに適用が除外され、 現在は14歳以上への適用除外を求める運動が進行中です。
韓国性暴力相談所長キム・ヘジョン氏によれば、改正以降は数十年前の事件でも、被害者の一貫した供述や客観証拠(DNA・記録など)に基づいて捜査・裁判が行われ、 時間経過にかかわらず公正な判断が下されているとのことです。
香港の現状:香港では性犯罪に関する公訴時効は存在しません。それでも児童期の被害事件の起訴は依然として困難ですが、司法が事件を扱うこと自体が被害者にとって大きな意味を持つと強調されました。また、オーストラリア全州で導入されている「持続的幼少期虐待罪(Persistent Child Sexual Abuse)」について、香港への導入の提言がなされました。
台湾の状況:未成年被害者について、成人(満22歳)まで時効を停止する制度が導入されており、 さらに公訴時効そのものを廃止すべきだという議論が広がっています。
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「Yes Means Yes」型規定導入の可能性
早乙女祥子より、日本では依然として被害者が抵抗できない状態、明確に「NO」と言えない状態だった場合、あるいは被害者が「嫌だ」「やめて」と抵抗していたとしても、加害者が「同意があると思っていた」と主張すれば故意が否定され、無罪となってしまうという課題が残っていると指摘しました。
行為者が相手の積極的・肯定的な同意を確認しなければ処罰されるという「Yes Means Yes(YMY)型」規定の導入が不可欠であると提言しました。
台湾の判例:台湾最高裁は2021年の判決で初めて「Only Yes Means Yes」の積極的同意モデルを導入し、165件を超える判決がこの判決文を引用しています。被害者がすぐに救助を求めなかったことを理由に「自発的」とする被告の主張を退ける根拠として YMYが用いられた画期的な事例です。
一方で、法改正なしにYMYを全面適用するには「意思に反する」という構成要件の制約が残るとも指摘されました。
香港の提言:Association Concerning Sexual Violence Against Women(ACSVAW)のシェリル・イップ氏は、 現行法では被害者の不同意が「真摯な誤信」によって覆される問題を報告しました。カナダ法を参考に、「抵抗の不在のみでは同意を構成しない」ことを明文化し、「同意確認のために合理的な行動を取ったかどうか」で判断する限定的な方法を提案しています。
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デジタル性暴力への対応と国際連携
NPO法人ぱっぷす理事長・金尻カズナ氏からは、 日本で急増する「金銭セクストーション」(性的画像を利用した脅迫)の現状が報告されました。
2024年度の相談件数は1,864人に上り、被害者の68%が男性であることも明らかになりました。日本には「同意のある性的画像を用いた脅迫行為を明確に処罰する規定がない」という課題が浮き彫りになりました。
韓国の厳格な規制:ディープフェイクポルノに関しては制作・配布のみならず、所持・購入・保存・視聴までも処罰対象です。さらにインターネット事業者への責任強化が進められ、 政府機関による違法撮影物の流通監視と年次報告が義務づけられています。
台湾の総合対策:2023年1月に刑法を含む4法が改正され、「四法連携防止」体制が確立。性的画像の定義と犯罪化が明確化され、特に児童・青少年の性的搾取画像の所持・購入への罰則が強化されました。
パネルディスカッション
後半は、各国からの報告を踏まえ、下記のようなテーマでパネルディスカッションを行い、今後どのように提言活動をしていくと性被害社が救われる社会になるか、下記のテーマなどが話し合われました。
・性犯罪の公訴時効撤廃と長期事件の捜査・立証のあり方
・YMY型規定の導入と「同意」の社会意識化
・デジタル性暴力への包括的規制と被害者支援体制の構築
・NPO/市民社会によるアドボカシーの戦略と政府との連携
「東アジア性犯罪法比較白書2025」の発表と提言
集会の最後には、Springが取りまとめた『東アジア性犯罪法比較白書』が発表されました。本白書は、韓国・台湾・香港・日本の4地域を対象に、「公訴時効」「YMY型規定」「デジタル性暴力規制」の3テーマを多角的に比較・分析したもので、今後の日本の制度改革の基礎資料となることを目指しています。
提言として以下の3点が掲げられました。
ー公訴時効撤廃に向けた制度的・社会的基盤の整備
ーYMY型規定導入に向けた教育・意識啓発の推進
ーデジタル性暴力に対する国際的連携と政策強化
登壇者一同、東アジア各国が共通の課題を抱えながらも、 互いの経験を共有し、連帯を深めることの重要性を再確認しました。
白書は、こちらよりご購入いただけます

Springは、今回得られた知見を活かし、 2028年頃に予定される刑法再改正検討に向けて、引き続き活動を続けていく決意を新たにしました。会場でご参加いただいた皆さま・アーカイブ動画をご視聴いただいた皆さま、誠にありがとうございました。今後とも皆さまのご支援・ご協力を何卒よろしくお願いいたします。
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